フリーメイソンと理神論
大変よく書けている本だ。
フリーメイソンは、簡単に言うとキリスト教の理神論をベースにした親睦団体だ。
キリスト教とは、ユダヤ教から派生した一神教だ。一神教では、神さまは一つだけ。多神教のように八百万の神はいない。キリスト教は厳密な意味での一神教とは言えないが、ここでは深入りしない。
最大のポイントは次の点。イエス・キリスト(神の子)を唯一の救いに主であることを信じすることで、救いを得ることが目的であるということ。救済が目的だ。
フリーメイソンは、キリスト教の中でも、理性を重視する理神論をベースした親睦団体だ。
理神論とは何か?
一神教では、唯一神と人間の間には絶対的な隔絶があるので、神様は人間の理解を超えた存在である。しかし、理神論では、神様から与えられた「理性」を用いることで、人間は神を理解できるとする。
理性を使って、人間は自然科学を作り出した。自然科学では、自然法則(神の創った)を解明することが目的だ。
フリーメイソンは、18世紀にイギリスで設立され、その後、世界中に広まった。当時、ニュートンが物理学を打ち立て、科学革命が起こっていた。
しかし、そういった最先端の知を学べる場所がなかった。大学では、神学、法律学、医学などを教えていたが、自然科学は、貴族が余技でやるものだった。
理神論は、時代の先端をいく自然科学と相性がよく、フリーメイソンには新奇な思想や科学の知識を持った人たちが集まった。
また、信仰さえもっていれば、宗派は問わなかったので、宗教改革後のカトリックとプロテスタントの対立もフリーメイソンの中ではなかった。
近代市民革命のリーダー、ベンジャミンフランクリン、ラファイエット、ジョージワシントンがフリーメイソンであったのも、偶然でもなく、陰謀でもない。
フリーメイソンのコミュティでは当時の最先端の知見の情報交換が行われていたのであり、革命を先導するような先進的な考え方をする人々が集まっていのだ。
今でいえば、インターネットやSNSのような役割を果たしたと言える。
フリーメイソンにはローマ・カトリックにおけるバチカンのような本部はない。グランドロッジというロッジ(集会)を上位で統括するロッジはあるが、グランドロッジ自体が複数ある。中心がないので、陰謀を企てにくい。ロッジの場所も一般交換されているので、政治謀略を企てるには向いていない。
フリーメイソン陰謀説は、国家の諜報機関によって作られてきた経緯がある。
カトリックは、フリーメイソンからスピンオフした組織であるイルミナティを廃絶した。イルミナティはドイツのバイエルンというカトリックの地盤の強い土地で生まれた。カトリックは保守的な傾向があり、新奇なフリーメイソンは都合が悪かった。
また、第一次大戦後、多額の賠償金に苦しんだドイツは国民の不満を矛先をユダヤ人とフリーメイソンに向け、ヒットラーが政権を握ると、フルーメイソン滅亡に乗り出した。
いつの時代も陰謀団体を警戒し、摘発するのは諜報機関だ。本当の秘密団体は、その存在自体が秘密なので存在自体がわからない。その意味で、諜報機関こそ、本来の意味での秘密結社だと言える。ナチスも、カトリック教会も、フリーメイソン中に自分の似姿を見たのだろう。
フリーメイソンは陰謀団体とは言えないだろう。
フリーメイソンの基盤になっている理神論は近代社会を理解する上で鍵となる。
民主主義では、人々が選挙で、公職につく人を選ぶ。選ばれた人は神によって選ばれた。選挙によって公職につく人を選ぶ民主主義が一番正しい政治のやり方とされている。
市場経済は正しい。自由な経済取引により、誰が儲けて、誰が損をするか、事前にはわからない。市場には神の手が働く。だから、関税などの規制は最小限にした方が良い。
これらは理神論的な考えだ。神の存在を否定せず、人間の理性も否定しない。
理神論は無神論と違う。無神論の代表格が唯物論、マルクス主義だ。マルクス主義はバリバリの合理主義で、人の力で世界を改造しようとした。だから、民主主義や市場経済に神の摂理が働くとは考えない。経済も、政治も、人間が介入するのが正しい。
ソ連は崩壊し、マルクス主義は失敗に終わった。市場経済も、民主主義も自律的に働くのが正しいと、みながまた思うようになった。無神論ではなく、理神論が勝利した。
フリーメイソンは理神論とキリスト教信仰のインターフェース(仲介者)である。
フリーメイソンはピークをすぎたかもしれないけど、人々の生きる信仰(宗教)と、世俗の合理的な制度との、インターフェースが必要ということは今でも変わらない。それは、中華世界でも、イスラム世界でも、インド世界でも言えることだ。
人々の素朴な信仰(キリスト教)と、合理的な社会制度の繋ぎ役、インターフェースがフリーメイソンであった。