『ソクラテス以前以後』 


 

今回の記事は、哲学に興味のある方向けです。

 

 

ギリシャ哲学の入門書として大変優れた本だ。


西洋古代哲学は主に4つの時代に区分に分けられる。

 

⑴ 初期ギリシャ (ソクラテス以前)、6世紀初めから5世紀

タレスピュタゴラスなど

 

⑵古典期ギリシャ、前5世紀半ばから前4世紀後半

ソクラテスプラトンアリストテレス

 

⑶ヘニニズム哲学、前4世紀末から前1世紀
ストア派エピクロス派、懐疑主義

 


⑷ローマ、古代後期哲学、前1世紀から後6世紀前半
キケロ、新プラトン主義など

 

 


ソクラテス以前以後』(F.M.コーンフォード著)

では、⑴初期ギリシャから⑵古典期ギリシャアリストテレスまでを外観した優れた入門書だ。


まず、初期ギリシャの説明が簡潔で明瞭。

 

前6世紀以前の、自身の人格を自然に投影した状態では、

例えば、雨が降るのは、雲の神様が泣いているから、ということになる。

 

要は、人間の心理的世界が単純に自然界に投影されたアミニズムの世界観だ。

 

雨の神様、雷の神様がいるから、自然現象が起こる神話の世界。

 

しかし、


自己と自然世界の切り離しが起こり、現代に科学につながるような自然のメカニズムの解析がはじまった。

 

このブレイクスルーからしてなかなかすごいことではあるが、

 

それは必ずしも、ソクラテスの心を捉えなかった。


初期イオニア自然学(初期ギリシャの哲学)はソクラテスの心を捉えることはなかった。

それら自然学は、人間がどう生きるかには役にはたたない。

 

ソクラテスは、人間の魂の完成を目指す哲学の道を切り開く。

 

魂の完成とは、善と悪を自分で判断できることができる能力、内観の座を指す。

これは、後ろ指さされぬ順応という子供じみた道徳を超克することであり、

とりわけ正しさと間違いについて自分たち自身で考える、大人の自由を獲得することだ。


それを『希求切望の哲学』と言う。

 

『希求切望の哲学』はプラトンイデア論に継承される。

 

完全へ到達することを希求するソクラテスの哲学は、

 

イデア、理想型の概念を用いて、哲学を組み立てたプラトンに通じる。

 


さらに、『希求切望の哲学』はアリストテレスへと継承される。

 

アリストテレスが言う形相(タネは芽になり、芽は木になり、実になる)とは、まさに、変化の方向性を指し示すものであり、終局から物事を説明しようとすると言う意味で、『希求切望の哲学』であり、ソクラテスの魂を受け継いでいると言える。