The Social Life of Moneyの要約① 序文 

 

 

 

近年出版された貨幣論の中でも世界的な名著との呼び声高い

 

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ナイジェル・ドットのThe Social Life of Moneyの要約をアップしていきます。

 

この本は、2014年末にプリンストン大学出版から出た本で、

 

著者のドットはロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの教授で現代思想貨幣論を専門にしている人です。

 

 

The British Journal of Sociologyの現役の編集長です。

 

専門家の間では話題になることも多いの本です。

 

現代思想、経済思想・哲学・文学の知見から貨幣を分析した本で、全体が8章構成、456ページの大著です。この本を読むと貨幣に関する理論や思想はひととおりわかるように思います。

 

以下、本の序文の要約です。

 

  • 本書の研究課題(Research Question)

 

本書はリーマン危機やギリシャ問題などの目に見える現在の問題の記述からはじまる。

 

中央銀行や政府が流動性を与えるシステム自体の危機なのではないかと考え、貨幣を創造する権利の問題は、権力、自由、正義、法律など様々な分野において深遠な問題を提起している。

 

また、システムが巨大な銀行を公的な資金で潰さないでいるために、様々な義務や
信用によって成り立っている貨幣が侵食されているか?

 

そうした背景の現状、貨幣のSocial Lifeを探求することがこの本の目的。

 

具体的には、

 

価値の源泉、時間と空間との関係性、社会における役割、コミュニティや国家、権力との関係、宗教、儀礼、無意識、文化、アイデンティティとの関係

 

 

本書のテーマは大きく3つにわかれる。

 

  • ①概念的テーマ(Conteputual)

 ・貨幣はプロセスなのかモノなのか?貨幣は商品なのか、社会的関係性なのか?

 

・貨幣は本質的にはフィクション、また、社会的に必要で必然な幻想である。

・貨幣の定義:とてもパワフルなアイディア(概念)。

・社会理論は、貨幣に対して概してネガティブなスタンスを取っているのが一般的(マルクスウェーバージンメルなどが主張するように、近代社会において人間が空虚で無機質な存在になっていく。貨幣の流通が社会全体を覆うにつれて、人間が内的な意味や独自性を喪失し内面的に空虚な存在になっていく。一方、本書では貨幣の社会を壊して行く側面だけではなく、貨幣そのものによって社会を良くする可能性を探求する、というスタンスをとっている)。

・貨幣の理論や在り方に多様性を育みたい。貨幣には多様性があった方が良いというのが著者の基本スタンス。

ガルブレイスによると、貨幣に関する議論は一部のコミュニティの一部の専門家だけが理解できる用語の応酬になっている。そうしたよく分からない呪文ような議論をより広い現代思想のテーブルの上に乗せたい。ベンヤミンニーチェなどの従来の貨幣論にあまり出て来ることのなかった思想家も登場する。

 

社会学的というものの、広く社会科学全般(政治学、人類学、歴史学、哲学、経済学など)を視野に入れている。

 

ジンメルによると貨幣とは、「社会に依拠する権利」ということであるが、どのような意味において社会に依拠する権利なのか?この権利は何に基づいているのか?何によって維持されているのか?この場合の社会とは何を指すのか?

政治権力よるバックアップは必要か?水平的(ビットコインなど)、及び垂直的(国家−中央銀行システムなど)な貨幣のマネージメントシステムの違いは何か?仮に貨幣が債務の一形態だとしたら、誰に対して債務を負っているのか?本当の所、誰が債務をかかえていると言うべきか?銀行は貨幣の広範な運営においてどの程度、重要なのか?

 

  • ③規範的テーマ

・ 理想的な貨幣の形態は存在するか?もし存在するとしたら、貨幣改革の目的と射程とは何か?

・貨幣は必然的に権力よる媒介物であるとしたら、どのようにその権力を使うべきか?もしくは抑制するべきか?

・あらゆる貨幣はユートピア的な力を内包している。この力は長年、思想家達を魅了してきたと同時に、当惑させてきた。貨幣は、あらゆるものと交換可能というパワフルな考えに基づいている。

・貨幣は社会問題の原因にもなるが、しかし、貨幣自身のまさにその性質によりポジティブな社会変革の動因になりうる。

 

本は8章構成。

 

  • 第1章 貨幣の起源

・どのようにして貨幣が始まったか?全部で6つ起源説が紹介される。

リチャード・ローティのFinal Vocabularyという言葉がある。ある地点で、疑問を投げかけることを止めてしまい、議論が閉じた循環論に入ってしまい、制約のない自由な議論が展開されなくなる。神話としての貨幣の起源説は、正にFinal Vocabularyように機能するきらいがある。この種々成る起源説の間違えを証明しようというよりも、現代の論説を熟考するために使いたい。それぞれの起源説の真偽は脇においておいて。

  • 第2章 資本

・この章では、マルクス主義の思想家の議論、とくに信用システムに関する議論にフォーカスを当てている。マルクスの貨幣の矛盾した性質(contraditory nature of money)に関する分析は資本主義における貨幣の役割を理解するのに役立つ。

マルクス、レーニン、フィルフェディング、ルクセンブルグなどからはじまり、ハヴェーイ、マラッツィ、柄谷など現代の思想家のマルクス受容へと続く。

  • 第3章 債務、借金

・議論は、債務関係の歴史から始まる。社会を円滑に運営する潤滑油としての債務から権力や国家による略奪への変遷をおいかける。

・債務・借金の関係性によってこそ貨幣は社会性を得る。しかしそれが行き過ぎると破壊的な帰結へといたる。

  • 第4章 ギルト、罪

・ドイツ語のSchuldは借金と同時に罪という意味もある。

ニーチェの議論をレンズを債務、借金にまつわる経済倫理を探求。

ベンヤミンの罪の歴史としての現代資本主義、ノーマンブラウンの神経症としての貨幣コンプレックスから、現代社会における貨幣によってもたらされた個人の自由とは、実は、古代より続く倫理の鎖によって限定されていたのか?

  • 第5章 ウェイスト、浪費、過剰

バタイユのGenelral Economyの議論により、社会の過剰、余剰、ウェイスト、浪費 について議論。

デリダとボードリアールの議論を敷衍して、インフレーションや債務などの問題に対して、従来の経済学にように欠乏から議論をスタートしなかった場合にどうなるか、分析する。

  • 第6章 テリトリー、領域

・貨幣の脱領土化(deterritorialized)が進行している。ウェストファリア条約的な貨幣(国民国家の貨幣)とは何かという議論から始まり、近年の脱領土化のトレンドまで分析。

 

・脱領土化の時代において、どのように貨幣空間と貨幣のフローについて考えれば良いのか?社会と貨幣との関係はどうなるのか?

 

カール・シュミット、ドゥーズ=ガタリ、ハート=ネグリ、バリバールなどが登場する。

 

  • 第7章 文化

・ミクロな社会学的、人類学な分析。貨幣は社会に破壊的な帰結をもたらすものなのか?それとも社会を良くするポテンシャルがあるのか?

 

・質的理論と呼ばれる議論が登場する。キース・ハート、ヴィヴィアナ・ゼリザーなど。貨幣は一見、無機質に見えるが、文化的文脈によって色付けされている。

 

・まず、ジンメルとフロームの議論が登場。フロームは、「生きるということ」という著作に出て来る、To BeとTo Haveの2つのモードが登場する。

 

・貨幣改革の理論家、オーウェンプルードン、ゲゼル、西部忠、柄谷などが登場。地域通貨ビットコイン、電子決済ビジネス、モバイルマネー、Social Lending、決済インフラのデジタル化など、広範に貨幣改革を分析。

・貨幣の形態は、未来において、近代ではこれまでなかったほど多様化するだろう。単に、誰が貨幣を創造するか、という点だけでなく、誰が貨幣が流通するインフラを管理するか、という点でも。

 

貨幣とは、社会に依拠する権利である。 ジンメル